離職率ゼロの経営者が大切にする「1on1」とは?

こんにちは!エムズクリエイティブシステム(MCS)の牧野です。エンジニアと現場をつなぐSES事業の会社を経営しています。

今年は例年より梅雨入りが早く、新緑が美しく気持ちがいい季節を過ごせるのは、あとわずかのようです。コロナ禍のうえに、気持ちがどんよりしがちな梅雨に突入しますが、五月病対策にもなりますので、質のいい睡眠、バランスのいい食生活、適度な運動、自分をゆるめられるようなリラックスタイムを見つけて、土台となる自分の体と心を守りましょう。私も早寝早起きを心がけ、早朝筋トレを週5で頑張っています(やりすぎ?笑)。


離職率が高い企業の傾向

さて最近、転職希望の方と面接をしていると、転職理由として、年収や仕事内容のほかに、「人間関係や仕事、キャリアについての悩みを相談できる人がいない」ということを挙げる人が多く見受けられます。1人で悩み続け、解決策が見つからなかったり、耐えられなくなったりして、転職に踏み切るようです。こうした原因が、離職率の高さにつながっているSES企業もあるだろうなと感じます。

弊社はまだ小さな会社ではありますが、離職率はゼロです。その要因の1つとして、問題が大きくなる前に、解決することに尽力しています。それが働きやすさにもつながりますが、問題が小さなうちに見つける方法として役立っているのが、「1on1」です。

「1on1」とは、一言でいうと、定期的に上司と部下との間で行う1対1の対話のこと。米シリコンバレーでは企業文化として以前から根づいていたもので、今では日本でも普通に使われるビジネス用語になりました。原則週1回、30分の面談をすることで、部下の成長スピードを高めてきたヤフーの1on1が、4〜5年前に注目され始めたことがきっかけだと思います。その仕掛け人が、人材育成を効果的に行なっているZホールディングス(ヤフー)の執行役員・本間浩輔さん。2012年以降、おそらく日本企業で初めて全社的に1on1を定着させた人物です。

私も本間さんの著書『ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法』(ダイヤモンド社)を読んで学びました。報告や相談、目標や成果を確認するような一般的な上司と部下との面談とはまったく違うものだと、目からウロコが落ちたことを覚えています。

始めたきっかけは、社員と話す時間が激減したこと

私が1on1を始めたのは、一昨年の10月。きっかけは、私が顧客の常駐先でエンジニアをしながら経営を担っていたスタイルから卒業し、会社を大きくするために経営に専念したことでした。

それまでは、私も現場に出てエンジニアたちと一緒に仕事をしていたので、彼らの様子や状況を見ることができ、雑談やコミュニケーションを取る時間もたくさんありました。悩みや問題があれば、その場で相談に乗ってアドバイスをしたり、働きやすくなるように客先と交渉や調整をしたり、社員の調子や顔色が悪そうだなと思えば、声をかけて話を聞いたりしていました。こうした日々のやりとりにより、問題が大きくなる前に解決することができ、メンタル不調や離職なども防ぐことができていたと思っています。

また、自分とは異なる現場で働くエンジニアたちについては、かつて一緒に仕事をしていた大ベテランばかりなので、互いの考えや趣味趣向は共有できており、何かあれば必要なタイミングで気軽に連絡や相談ができる関係性が築けていました。よって、自分が現場を離れることで心配だったのは、特に若手エンジニアたち。これを機に、定期的にコミュニケーションを持つ必要があると考えました。

1on1の目的は、“部下の話を聞くこと”

1on1の目的は何でしょうか。私が掲げている目的は、

  1. 悩みを相談する場
  2. ガス抜き、ストレスを発散する場
  3. PDCAをサポートする場
  4. 雑談でもOKなので、いつでも話を聞いてくれる人がいることを分かってもらう場

などの主に4つになります。

どのように1on1をするのか

では実際に、どんな風に1on1を行なっているのか。今は、社員たちの希望や都合に応じて、月1〜2回の1on1を実施しています。テレワークをしている社員にはオンライン形式で、顧客の常駐先に出勤している社員には、私が常駐先の近隣まで出向いて話を聞いています。

やり方として、テーマは社員に決めてもらい、話したいことを話してもらいます。例えば、現場での仕事の進め方や人間関係、キャリアについての悩みなど。自分自身の先々の目標があれば、計画を立ててその実行状況を私に話すことで振り返りの時間になるマイルストーン的な役割として、1on1を活用する社員もいます。仕事とは全く関係のないプライベートの相談を受けることもあります。みんな忙しいので、1on1の日程が近づくと、「何を話すか考えておいてね」とメールやラインなどで、リマインドしておきます。

繰り返しますが、1on1は上司が伝えたいことを伝える場でなく、”部下の話を聞く場”であり、部下のために行う面談です。ですから、いくつか意識したいポイントがあります。これは私自身も、1年間、定期的にプロのコーチングを受け、そこから学んだことを取り入れました。

聞き手側に必要な3つの技術

ポイントの1つ目は、「傾聴」です。部下のための面談なので、上司がベラベラ話す場ではありません。まずは、部下の話にじっくり耳を傾ける姿勢が大事。

その上で、2つ目のポイントは「共感や承認」です。相手を否定せず、「そうか、忙しかったんだね」などと相手の気持ちに寄り添いながら共感したり、言動を認めたりします。過度な共感は必要ないと思いますが、相手は心を開きやすく、話しやすくなります。尋問ではなく、雑談のような空気感も大切で、相手が緊張しないように心がけています。また、無言や間を恐れないことも大事。人によって、思考する速度は異なります。オンラインの1on1だと難しい面もありますが、無言を恐れず、急かさず、なるべく相手から言葉が出てくるのを待ちます。

3つ目のポイントは「質問」です。相手が悩んでいると、経験則からついつい答えやアドバイスを言いたくなりますが、そこはぐっとこらえ、「うまくいったときと今回の違いは何かな?」などと、相手から教訓や気づきを引き出すような質問をします。答えが分かっていたとしてもあえて言わず、社員自身が考えて気づきを得られる質問を意識して投げかける。自分で考えて気づいたことは、人に指示されたことよりも納得しやすく、次の行動に移しやすくなります。

いわゆるこのコーチングで、部下のPDCA(Plan/計画→Do/実行→Check/評価→Action/改善)サイクルを回すことを、上司はサポートするのです。PDCAサイクルを回す回数が多い人ほど、成長スピードは速いです。

日々の「振り返り」「気づき」「自分への意味づけ」が人を成長させる

ちなみに、PDCAを回すと大げさに考えなくても、日々の出来事を振り返って気づきを得る習慣は、最近再注目されており、その手の本を見かけることも増え、多くの経営者やビジネスパーソンが実践しています。

例えば、『1行書くだけ日記』(SBクリエイティブ)の著者で、同じくヤフーで次世代リーダーの開発を担うZホールディングズZアカデミア学長の伊藤羊一さんは、「振り返って気づいて行動する」を毎日繰り返し、「50代の今が、人生で一番成長している」とある雑誌のインタビューで答えていらっしゃいました。

具体的には、毎日「やったこと」を「DAY ONE」という日記アプリに一言記録し、「それは自分にとってどんな意味があるのか」と自問されます。そこで「そうか!」と思う気づきを得て、取るべき行動が見えてくる。行動する回数が増えていくので成長しやすくなります。

また、毎日の振り返りだけでなく、1週間や半年、1年というスパンでの中長期の振り返りも大切にし、“1人振り返り合宿”も実践。そうした習慣のおかげで、やりたいことや自分が進むべき道が見えてくるのだとか。今春、武蔵野大学でアントレプレナーシップ学部を立ち上げ、学部長として新しいチャレンジに挑んでらっしゃいますが、そうした日々や中長期の振り返りが、道を切り開くきっかけになっているのだろうと思います。

伊藤さんのように日々の振り返りや内省が習慣化され、気づきを得て行動に移すのは、簡単ではありません。1人で続けること、気づきを得ることが難しいからこそ、1on1を利用して成長につなげてほしいと思いながら面談しています。真面目に人の話を聞くと、かなりの労力が必要ですが(笑)。

「コーチング」と「ティーチング」をうまく使い分ける

経験値が浅い若い部下に多いのが、1on1で質問をしても気づきや答えになかなかたどり着けないケースです。上司が明確な「答え」を持ち、その答えをいつ示せばいいのか、あるいは最後まで示さない方がいいのかなど、相手の性格や思考を見極める必要がありますが、急いで解決しなくていい問題の場合、「次回までの宿題にしようか」などと言うこともあります。

あまりにもゴールまでが遠すぎたり、トライアンドエラーをする余裕がない場合は、「コーチング」ではなく、「ティーチング」をします。つまり答えを教える。子育てで例えると、小学生低学年の子どもには「挨拶をきちんとしなさい」「早く寝なさい」と教えると思います。子どもの目線に合わせて「~しなさい」と言い聞かせるのが「ティーチング」です。そしてある程度、ティーチングで教育して成長すれば、「どう思う?」と子ども自身が考えて答えを出すように導く「コーチング」に移行しますよね。

1on1の話に戻すと、ティーチングをするとき、なるべく私自身の経験談を交えて話すように心がけています。机上の空論だと思われることを防ぎ、「社長もそのときこんなに悩んでいたのか」と共感と説得力がついてきます。若手社員は、このティーチング期間が長いかもしれませんが、経験値が上がるのを見守りつつ、「自分で考える」コーチングへと移行していきます。

たまに、1on1が始まった途端、「今仕事が忙しくて、テーマを考える時間が取れませんでした」と言われることもあります。そういう場合は、私の方から「最近、どう?」と雑談のように問いかけます。そして、「自分が話したいことを話して」という。すると、たいがい働き方で一番気になっていることを話してくれるので、そこから話題を広げていきます。それでも話が出てこないときは、「今の仕事状況と具体的に何やっているのか教えて」「進捗状況はどう?」とさまざまな切り口から話題を投げかけ、「その失敗をしたときに、どんなことを思って、どうしていこうと思ったの?」などと、掘り下げて新たな気づきにつなげる質問をします。

1on1の効果が出始めた社員たち

実際に1on1を続けていくと、さまざまな効果が出てきました。ある社員は、今まで自己研鑽のために勉強した方がいいと思っていたけれど、業務が忙しくて億劫になり、勉強が続かなかったと言います。定期的に1on1を実施することで、「次の1on1までに、目標のここまで勉強しなくちゃ」という意識が働き、コミットできるようになりました。

別の社員との1on1では、コロナ禍でテレワークになり、「不眠でつらい、体調がおかしい」という悩みの話題になりました。原因を聞くと、通勤がなくなり、平日1歩も外に出ない日もあったりして、運動不足によって眠れなくなったと言います。寝つきが悪いので夜更かしし、朝がつらく、仕事のパフォーマンスも上がりにくいという負のスパイラルに陥ってしまったのです。「テレワーク前の体調に戻すにはどうしたらいいかな」などと質問して私が壁打ち相手になり、本人が出した答えが生活習慣を見直すきっかけとなって、不眠が改善されました。

プロジェクトのリーダーとして頑張っていた社員は、手を変え品を変えさまざまなアプローチで指導していましたが、うまく業務を遂行してくれないと、若手後輩の育成に思い悩んでいました。どんな教育の仕方をしていたのかを一通り聞き、その上で、他にも方法はあるかな?と聞いて考えてもらったのですが、なかなか案が出てきませんでした。そこで、コーチングからティーチングに切り替え、私自身の経験を話しながらアドバイスすることで、業務がうまく回るようになってきました。

このように、自分で考えて仕事を回せるベテラン社員も、1on1の時間を持つことで、新たな気づきを得られたり、困ったら一人で抱え込まず、相談できる人がいることを分かってもらえたりする機会になります。弊社には、フリーランスも所属していますが、悩んだとき、迷ったとき、八方塞がりになったときこそ、チーム力を有効活用してもらえればとも思っています。

社員の意外な一面を知る機会に!

1on1は、部下のための面談だと繰り返し話しましたが、実は私自身も気づきを得られる時間です。現場や飲み会で接する印象と、わざわざ時間を取って1対1で話すときの印象が異なる社員がいて、「この人、こんなに話すんだ」「え?こんなことを考えていたの?」「こんな目標があったのか」と驚くことがあります。もちろん、人となりや考えの背景も知ることができます。

1対1だからこそ、心を開いてもらえれば、やりたいことや自分がどうなりたいかといった本音や目標を聞かせてもらえる。私自身、どうサポートすれば達成できるのかと一緒に考えるための、大切な情報をもらえる時間になっています。